最高裁が子どもの損害賠償責任に関する画期的な判例を示しました。

 曰く、『親が居合わせない場所における子どもの日常的な行為によって偶然相手に損害を与えてしまっても、損害賠償する必要はない。』そうです。


◆どんな事件だったのか

 では、いったいどんな事件において、このような判例が出されたのか確認しましょう。難しい話ではないです。

 小学生の子どもが、友達と一緒に放課後の校庭でフリーキックの練習をしていたら、蹴ったボールがゴールを超え、更には校庭の門扉までをも越え、道路に出てしまったのです。

 そこへバイクに乗った85歳男性が来ました。男性は、ボールを避けようとして転倒、そして左脚を骨折しました。男性は入院し、その後認知症の症状が出始め、事故から1年半後、食べ物が誤って気管に入ったことで起きた肺炎で亡くなりました。

 男性死亡から2年後、遺族はボールを蹴った子どもの親を訴えました。損害賠償請求額は5,000万円です。


◆地裁と高裁では遺族の勝ち

 死亡した男性の遺族の訴えを受けて開かれた地裁では、遺族が勝ちます。地裁曰く、

 親はね、子どもをしっかりと指導監督すべきなのだよ。蹴り方次第で道路に飛び出そうな場所で練習して良いわけないでしょ? ちゃんと教えておかないと、ダメだよ。

 だから、子どもの親は、男性の遺族に損害賠償せざるを得ない。賠償額は1,500万円だね。

 男性が死亡した原因は、入院などによって生活が一変したことから生じたものだと考えるのが妥当だもの。ただね、男性自身の脳の持病の影響もあるだろうから、そこはきちんと斟酌したよ。


 だそうです。

 その後の高裁でも、地裁と同様の判決がなされました。


◆最高裁でのドンデン返し

 地裁と高裁が同様の判断を下す中、最高裁だけは違いました。

 いやいや、地裁さんも高裁さんも違うでしょ。

 確かに道路にボールが飛び出る可能性はあったよ。あったけれど、放課後の校庭でサッカーの練習をするなんて日常的な行為でしょ。普通だよ。それがダメなの?

 しかもだよ。ちゃんとゴールネットは張られていたし、校庭の周りには門とフェンスがあった。さらには大きな側溝まであったわけだ。

 これほどの設備の中にいればさ、道路にまでボールが行くとは普通考えないでしょ。意識的に道路に蹴ったわけでもあるまいし。

 親の責任だってさ、子どもと一緒に居たわけでもないし、限界があると思うんだよ。

 だからさ、普通のしつけを受けた子が、普通に考えて安全な場所で、普通に行動していたのなら、親は責任を果たしたと考えようよ。

 その上で、今回の事件のようにたまたま相手に損害を与えてしまっても、親はやるべきことをやっていたのだから、許してあげるべきでしょ。

 もちろん今までの俺の対応も悪かったと思う。今までは、似たような事件だと被害者保護とか考えて加害者に厳しくしてきたけどさ、これからの俺は違うよ。

 地裁さんも高裁さんも、新しい俺の背中を見ながら、仕事に励んでよ。以上。



◆何かを得れば何かを失う

 このように、親の監督責任が幅広く認められるようになったわけですが、何かを得れば何かを失うのが世の理です。加害者が得をするなら、被害者は損をします。

 被害者の受けた損害は、被害者自身が何とかしなければならなくなったのです。保険で備えるなら傷害保険などが合理的でしょうかね。

 個人的には、『災害割増特約の必要性は超低い』で述べたように、傷害保険や災害死亡保障に必要性は感じませんので、何ら対策はしませんが。

 なお、今回の最高裁判決によって、個人賠償責任保険の守備範囲が少しだけ縮まりましたが、今回の事件例でも一歩間違えば数千万円の損害賠償責任を負うことになるので、個人賠償責任保険の必要性は相変わらず極めて高いです。


参考:最高裁判例(全文)、朝日新聞デジタル「サッカーボール避け転倒死亡 蹴った少年の親に賠償命令」(2011年6月28日12時9分)、同「子供が蹴ったボールでバイク転倒、後に死亡…親の責任は」(2015年3月26日20時07分)、
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