『契約数1位』の保険は偉大だ。何とも言い難い魅力を感じる。『保険なんてよく分からないから『契約数1位』の保険に契約すれば良いだろう』と考えても何ら不思議ではない。

 でも契約するのは、ちょっと待って欲しい。この記事を読んでからでも遅くはない。

 読み終わっても、相変わらず『保険なんてよく分からない』が、『契約数1位』の保険を安易に選んではならないことはよく分かるだろう。今回ご紹介するのは『社会的証明のワナ』だ。


◆社会的証明のワナ

 このワナは、ブームやバブルを形成するワナだ。『ハーディング効果(群衆効果)』とも言い、周りの動きに釣られて自分も周りと同じ行動を取ってしまう。

 そう聞いても、あなたは納得しないかもしれない。『ワタシは、ワタシの自由意思に従って行動している』と。

 でも、こんな経験はないだろうか。赤信号だけど周りが渡るから自分も渡った。みんなが『アナ雪』や『タイタニック』を観るから観に行く。急騰している株に乗っかる。人生初の選挙投票でよく分からないから与党に投票する。周りがスマホだからスマホを買う。

 どうだろう? あなたは周りの動きに流されていないだろうか。

 それに、周りの動きに釣られてしまうことは、実験でも明らかになっている。それが『アッシュの実験』だ。

 ここから、あなたは『アッシュの実験』の被験者だ。あなたは、問題を解くために教室に集められた。周りには、あなたと同じように集められた人々がおとなしく座っている。

 そこへ教師が来た。教師は教卓に着くなり黒板に問題を書き、こう言う。『この問題の答えは? 1列目から順番に答えよ。全員が答えたら正解を言おう。』

 最終解答者のあなたは心の中で笑う。『おいおい、こんな問題小学生でも解けるぞ』

 しかし、事態は急変する。周りの奴等が、あなたの想定する解答とは違う解答を繰り返す。しかも全員一致の解答だ。

 あなたは困惑する。自分の答えに自信はある。しかし、周りの全員がバカな可能性より、自分の思い違いという可能性のほうが高いのも事実だ。もうすぐあなたの番だ。さぁ、困惑と緊張の中、あなたの出した答えは?

 ここで被験者役を終わろう。実のところ、あなた以外の解答者はサクラだ。サクラは誤答を答える。そして、サクラに釣られて誤答を答える被験者は3割以上にも上る。正答を答えた被験者もそれはもう必死の様相だ。

 このような正否の明らかな簡単な問題ですら3割が間違えるということは、新聞を取るのか、『アナ雪』を観るのかという正否の明らかでない行為について、周りの動きに釣られる可能性は十分高いだろう。

 また、別の実験でも、人気が視覚化されているとそれに釣られることが明らかになっている。ランキング化されていたり、販売数が表示されていると、視覚化されていない場合よりも私たちはその商品に食い付く。つまり視覚化されると過大評価してしまうのだ。

 だから、極少数のランキング上位の商品は更にバカ売れし、多数のランキング外商品は更に売れなくなるというスパイラルが起こる。

 さて、このワナが孕む問題とは何だろうか。まず挙げられるのは、人気の視覚化によって、ランキング下位の商品が正当な評価を受けられないことだ。上位が過大評価されるせいで、下位は過小評価されてしまう。

 例えば、あなたがワナにハマって人気1位の映画を観たとしたら、2位以下の映画を観る機会はTSUTAYAで再会するまで失われるだろう。あなたを虜にする映画が2位以下にあったとしても、もう劇場で観ることはできないし、制作会社もレンタルの利益しか上げられない。これは大きな損失だ。

 さて次に、このワナが孕む最大の問題を考えてみよう。それは、集団の意見が間違っていた場合だ。みんなの意見が正しいとは限らない。太平洋戦争に臨んだ日本、昭和末期から始まったバブル景気、魔法の商品と思われたサブプライムローンと住宅担保ローン証券、このどれもが大きな爪痕を残している。

 
◆保険の世界での活用例

 さて、保険の世界で『社会的証明のワナ』はどのように活用されているのだろうか。

 まず、保険のランキング化が挙げられる。雑誌やネットには様々なランキングが載っている。『契約数1位』、『満足度1位』、『FPが選んだ保険1位』、『資料請求1位』なんて好例だ。

 中でも『契約数1位』の魔力は無視できない。なぜって、『契約数1位』ってことは、先人達が悩みに悩んで悩み抜いた末に出した結論の集大成であって、まさにキング・オブ・保険だからだ。

 だから、とりあえず『契約数1位』の保険に加入しておけば、あなたに代わって先人達が悩んでくれたから保険選びに費やす時間を節約できるし、失敗しないような気がする。

 その一方で、先人達の多くが『社会的証明のワナ』などにハマった可能性は考えないし、あなたに完璧にマッチした素晴らしい保険がランキング外にある可能性も考えない。

 また、『1位の契約数』よりも『2位以下の契約合計数』のほうが多くて、むしろ先人達の過半数は『1位以外の保険』を選んだ可能性だって考えない。

 そんな危うい『契約数1位』の保険を安易に選んで、何十万円も何百万円も注ぎこんでしまっては目も当てられない。

 ところで、『契約数1位』ではない保険を売りたい販売員も安心して欲しい。『契約数1位』の魔力にあやかって、こう言えばいいのだ。

 『最近契約される方が多いんですよ』 、 『みなさんこれを選びますね』

 今までに何度聞いたセリフだろうか。私たちに確認する手段がない魔法の言葉だ。これを聞くと、先人達に背中を押された気がする。

 保険会社のPRも『社会的証明のワナ』のうまく活用している。こんなフレーズを見聞きした覚えはないだろうか。

 『契約者100万人突破!!』 、 『販売3か月で契約者5万人突破!!』

 これらのフレーズも形を変えた『契約数1位』だ。なぜなら、100万人もの先人達が、あるいはたった3か月で5万人もの先人達が選び抜いた保険だとアピールできるからだ。

 しかし、これもよく考えれば可笑しなことに気付く。加入者は100万人かも知れないが、加入検討者が500万人居たら、この保険は8割の人にダメ保険の烙印を押されている。

 
◆ワナの回避方法

 このワナの回避は簡単だ。『他人の意見は関係ない』と気に留めて、日々自分で考え直して行動すればいい。

 でも、実はワナにハマったほうがよい場面は多い。例えば、あなたが銀行に入ろうとしたところ、中から大勢の人が飛び出してきた場合だ。普通に考えて銀行強盗や火災が起きている。

 こんなときはワナにハマるべきだ。ワナにハマるまいとして、入店するか逃げるかを考えている場合ではない。

 それに、ワナにハマることは、考える作業を大幅に短縮できる。複雑な社会で限りある人生を歩むためには、ハマらざるを得ない。

 結局のところ、あなたは今までどおり生きていけばいい。今までどおり、多くの小さな問題ではワナにハマって時間を節約し、少しの大きな問題ではワナの存在に留意しつつ真剣に悩めばいい。

 だから、美味しいレストランに行きたいなら食べログやミシュランに頼ればいいし、保険選びや住宅選びでは様々な意見を参考にして熟考のうえ結論を出せばいい。

 そして願わくは、集団が誤った道を進みそうなときは大声で止めて欲しい。あなたの良識で世界は変わる。



参考書籍:『なぜ、間違えたのか? 誰もがハマる52の思考の落とし穴』(著:ロルフ・ドベリ、訳:中村智子、2013年サンマーク出版)、『偶然の科学』(著:ダンカン・ワッツ、訳:青木創、2012年早川書房)



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